「神田侑真です。一生懸命頑張りますのでよろしくお願いします。」


彼が朝礼で自己紹介をした時、何かであたまを殴られたようなそんな衝撃があった。
『見つけた』そう思ってしまった。
私はこの人を探していたんだ。ってそんな感覚があった。


「ねえ、あんた。新人の神田くん。好きでしょ?」


同僚の岩沢にそう指摘された時は、本当に驚いた。


「何言ってるのよ。まだ入社したばかりで好きも嫌いもないでしょう?そもそもこんな話失礼じゃない。部下として、好きになれるように頑張るわ。」

「ちょっと小宮山ー。そんなんじゃアタシ、逃がさないわよ?部下としての神田くんの話をしてるんじゃないの。男としてよ、男として。
絶対好きでしょ?アタシ、そういうの分かるのよ。」

「ちょっと人聞きの悪いこと言わないでよ。仮にも私結婚してるのよ?そんなこと簡単に言えるわけないじゃない。それに、そんな気持ちサラサラないからね?誤解されたら困るからそんなこと言うのやめてよ。」

「アタシは結婚してたって関係ないと思うけど。好きになっちゃったら仕方ないじゃない。男と女ってそういうものじゃない?それにアタシは小宮山が旦那さんのこと好き好きいう度に違和感感じてたのよ。」

「違和感?」

「そ、違和感。なんだか自分に一生懸命言い聞かせてるように見えるのよね。私は旦那のことが好きなのって何度も何度も自分に。アタシはね、小宮山。あんたがあの新人くんを追う目が真実だと思うわよ?」

「もういい加減にして。岩沢じゃなかったらぶん殴ってるよ?私。」

「あらあら。いつも冷静な小宮山ちゃんがムキになってるわ。」

「ねえ、本当にやめて。それ以上言ったらもう口聞かないから。」


岩沢はよく人を見てる。ストレートな物言いで敵を作ることが多いけど、誰か具合の悪い人がいたら真っ先に気づくのは岩沢だ。
そんな岩沢が私は好きだった。けど、同時に恐れてた。彼女に私の常識は通用しない。
きっと岩沢は気付いてる。私が神田侑真に抱いている感情。
そしてその感情に一生懸命蓋をしようと必死になっている私に。

『我慢しなくていいじゃない』

岩沢ならこう言うから。私には酷な言葉すぎる。
私は先に席を立った。これ以上その話はしたくない。岩沢には勝てない私の精一杯の抵抗だった。