“ ーーつまり、君も律が好きだと?”
あの時。奏さんに尋ねられ、はっ、とした。
住んでいる世界がこんなにも違うのに。私はなんてバカなんだろう。もう、気付かないフリなんて出来ない。世界に名の知れた大財閥の御曹司で、美貌も実力も兼ね備えているスーパーエリートなのに、私に嫌われたと思ったくらいでこの世の終わりだと言わんばかりの顔をする彼が、愛おしくてたまらない。
「…嫌いになんてなれませんよ。」
「…!」
「榛名さんは、いつもカッコいいです。」
すっ、とこちらに視線を向けた彼。
私は、照れ笑いを隠すように、ぼそり、と告げる。
「…それと、ヤキモチも焼く必要ないですよ。私みたいなのに構ってくれる物好きな男の人なんて、榛名さんくらいしかいませんから。」
はっ、と目を見開く榛名さんは、そのままじっ、と私を見つめた。ふわり、と微笑んだ彼は、今まで見せてきた表情の数倍甘い。
ずるいな。
私の一言で、こんなにも舞い上がった笑みを見せる。
あぁ、認めた途端、ちょろいなあ、私。榛名さんが私だけを映す瞳に、胸が騒いで落ち着かない。
「“物好き”は心外だな。“見る目がある”と言ってくれ。」
「…こっそり訂正しておきます。」
「よろしい。」
色気のある微笑を浮かべた彼。ぎこちなかった空気が嘘のように軽い。
すると、ギシ…、とベンチが軋んだ。いつの間にか一人分空いていた距離を詰めた彼の肩が、トン、と当たる。
「…百合。一つ聞きたいんだが。」
「はい…?」
「俺は、いつまで“榛名さん”なんだ?」



