ぎこちなく歩き出す二人。
並んで腰掛けるが、その間にはひと一人分の距離がある。再び訪れた沈黙の時間が気まずい。…と、私が何を言い出そうかぐるぐると考え込んでいると、隣で小さく息を吐く音が聞こえた。
「ーー嫌いになったか?」
「え…?」
「俺は、自分の気持ちを押し付けようとした。…奏の名前を聞いて、余裕をなくした。」
視線を落としたまま呟く彼。
ぽつり、ぽつり、と言葉が紡がれていく。
「昨日の夜、百合が男に連れて行かれたと聞いて気が気じゃなかった。しかも、百合が危険にさらされている時に助けたのが兄貴で、アイツの前で無防備な姿を見せてるし、俺が贈ったドレスからアイツのタバコの匂いがするし。…トドメにアイツのこと、名前で呼んでるし。」
「…!」
不確かな熱が体に灯った。
尋ねるのも恐れ多い“心当たり”に、どくん、どくん、と胸が鳴る。
「榛名さん。…もしかして、“ヤキモチ”焼いてくれてたんですか?」
「!」
ぴくん、と彼の肩が跳ねる。
俯いて何も言わない彼。しかし、その耳は微かに赤く染まっていた。
「…ニヤけないでくれ。大の大人がカッコ悪いだろう。」
「そんなことないですよ。…私は…」
“嬉しい”
その言葉は飲み込んだ。
私は、何を言おうとしている?
彼のアプローチを散々断っておいて、嫉妬してくれたことがこんなに嬉しいだなんて矛盾してる。息を切らして駆けつけてくれたことも、私のことを守ろうとしてくれたことも、全部。
気持ちを認めてしまえば、自覚するのは早い。
私は、とっくにこの人のことを好きになっている。



