**
「ーー榛名さん…!どこまでいくんですか…?!」
コツコツコツ…!
手を引かれながら、夕方のオフィス街を進む。会社に連絡を入れて直帰の指示を得たから良いものの、彼は私を離そうとしない。
そして、やがて近くの公園までやってきた榛名さんはようやく足を止めた。時刻は、午後六時。遊んでいた子ども達も帰ったようで、辺りには私達以外人影が見えなかった。
すっ、とこちらを振り返る彼。
暮れゆく日の光に照らされた表情は、いつもの数倍カタい。
「…榛名さん…?」
そっ、と彼の名を呼んだ。
榛名さんは、先ほどまでとは打って変わり、じっ、と黙り込んでいる。まるで、何かを言いかけては躊躇っているかのようだ。しかし、不安げに揺れる切れ長の瞳は、真っ直ぐに私を映したままだった。
「…すまなかった。」
やがて、沈黙を破った一言。
弱々しい響きに、思わず目を見開く。榛名さんは静かに言葉を続けた。
「お前を守ると言っておきながら、いつも俺は、一歩間に合わない。百合には、幸せな思いだけさせてやりたいのに、“昨日”もーー…」
そこまで言いかけ、彼はピタリと動きを止めた。
彼の視線が私の首元に向けられていることに気づき、心が震える。恐らく、いま彼の脳裏をよぎっているのは、昨夜のクルーズ船での出来事だ。ベッドの上での“熱”が蘇る。
ふい、と視線を逸らす彼に、私はおずおずと声をかけた。
「…そこのベンチに座って話しませんか?その…、立ち話もなんですし…」
「…!あぁ…」



