このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~


半ば連れて行かれそうになりながら、ちらり、と奏さんを見る。彼はニコリとした笑みを浮かべたまま私に答えた。


「あー、タイアップの件ならちゃんと受けるよ。もともと今回は顔合わせだけの予定だったし、また正式に連絡するから安心して。」

「おい、百合への連絡は一度俺を通してもらうぞ。」

「これはビジネスだもの。仕方ないだろ?それに、このまま上手くいけば、“百合ちゃん”は俺の“妹”になるわけだし…プライベートの連絡先も交換しておいた方が何かと都合がいいと思うけど。」

「気安く百合の名前を呼ぶな。二度と二人きりで会わせるものか。」

(け、喧嘩しないで…!)


榛名さんに連れられて部屋を出る私。イレギュラーな退室ながら、せめてもと思いお辞儀をすると、くすくす、と笑う奏さんは、応接室の扉にもたれながら、ひらり、とこちらに手を振った。


「騙してごめんね。またね、百合ちゃん。」

「は、はい…!すみません、失礼します…!」


エレベーターが閉まる直前、なんとか交わせた会話。すると、小さく息を吐いた榛名さんは、ひどく疲れたような表情でぼそり、と呟く。


「百合、あいつにかしこまる必要はいい。睨み返すくらいがちょうどいいぞ。」

「っ、出来ませんよ!」


ーーこうして、なんとか“お兄さま”に認められたらしい私は、榛名さんに連れられるまま、煌びやかな芸能事務所を後にしたのだった。