にこやかに告げられた言葉に、ぞっ、とする。
奏さんは私と榛名さんを別れさせようとしたのではなく、私の“人間性”を見極めることが目的だったらしい。巧妙なドッキリを仕掛けられ、私はつい脱力する。
さすが芸能事務所の社長だ。演技だということを一切疑わなかった。…そりゃ、ハルナホールディングスの長男に1000万の小切手を渡されたら、誰だって本物だと思うだろう。
もっとも、彼は“不合格”の女性に一銭もお金を渡すつもりはなかったようだが。
と、その時。一息ついた私へ、奏さんが笑顔で爆弾を落とす。
「それにしても、君があんなにきっぱり断って律を取るとは驚いたよ。迷うくらいはすると思ってたのに。」
「っ!」
するとその瞬間、榛名さんが、ぱっ!と顔を明るくしてこちらを見る。
「断ったのか?俺を選んでくれたのか?」
「目を輝かせないでください。語弊です。」
そのやりとりは、もはや定番化していた。興味深そうにこちらを見つめる奏さんの眼差しは穏やかだ。その時、心なしか、しゅん、とした榛名さんが、くいっ、と私の腕を引く。
「…とにかく、帰るぞ百合。こんな茶番に長々と付き合ってやる義理はない。」
「!あ、あの、私、もともと“お仕事”でここに来たんですが…」



