あんなことを言われて、最初は訳がわからなかった。彼の事も、彼の想いも、何も知らなかった。
“…俺は、一家団欒なんてのとは縁遠い家で育ったからな。百合となら、俺が憧れる幸せな家庭がつくれると思ったんだ。”
「ーー…。」
沈黙が流れ、応接室は、しぃん、と静まり返っていた。奏さんは、答えを急かそうとはしなかった。言葉を続けるわけでもなく、ただ、じっ、と、私の返事を待っている。
「…受け取れません。」
それは、私が出した答えだった。表情を変えない奏さんは、「なぜ?」と小さく問う。
少しの沈黙の後、私は言葉を選びながら、ぽつり、ぽつり、と口を開いた。
「…私が榛名さんのお相手に相応しくないのはよく分かっています。ですが、ここでお金をもらうのは違うと思います。もちろん、借金が無くなれば、それに越したことはありません。ですが、私を好きだと言ってくれた榛名さんの気持ちを大事にしないような行動は取りたくないんです。」
「…!」
奏さんは、わずかに目を見開いた。
「…それは、律の嫁になる覚悟がある、ということか?」
「…!そんな図々しいことは…!…ただ、私は、榛名さんにお金をもらおうだとか、断って傷つけること気にして一緒にいるわけではありません。」
「つまり、君も律が好きだと?」
「!…そ、それは…、えっと…」



