「…それは、私が榛名さんの嫁に相応しくない、ということでしょうか?」
「まぁ、率直に言えばそうだな。私利私欲や断れずに仕方なく、などで結婚されては迷惑なんだ。律も君も幸せにならないだろう?…この金は、今まで律が迷惑をかけた“お詫び”だ。“手切金”だと思ってくれればいい。」
その交渉は、もはや圧力がかかっているような気がした。突きつけられた現実は、そう甘くない。
本当に、あの封筒の中に小切手が…?、とそんなことを思っていると、彼はそれを察したようにちらり、と中の紙を少しだけ外に出す。
“10,000,000”という達筆が覗く。いち、じゅう、ひゃく…、とこっそり数えるが、何度やってもやはり1000万。
(本気だ…。本気で奏さんは、私を榛名家から遠ざけようとしている。)
その時、ふっ、と榛名さんの顔が頭をよぎった。彼の兄と私の間でこんな取引が行われていることを、きっとあの人は知らない。
私が、ここで小切手を受け取ればどうなる?
借金が無くなって、おばあちゃんにも絋太にもいい暮らしをさせてあげられる。やっと、人並みの生活に戻れる。
だが、その代わり、二度と榛名さんには会えない。
“これからどんなことが起ころうと、俺が何に代えても守ってやる。お前の抱える借金も、全部肩代わりして払ってやる。
ーーお前はただ、俺の“嫁”になるだけでいい。”



