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「あっははは…!それでここまで逃げてきたってわけね!それ、どこのドラマの話?」
ーー午後八時。きらびやかなネオンが灯るビル街の一室。
背中と胸元が大きく開いたドレスを身に纏ったロングヘアの女性が、私の話にケタケタと笑った。
「笑い事じゃあないですよ、“ミユキ”さん…!見ず知らずのオッサンの嫁にされるところだったんですから!」
「よかったわね、無事に逃げきれて。でも、もしお金持ちと結婚出来ていたら、アンタは“ここ”を辞められたのにねえ。」
セクシーなドレスとキラキラ光る酒のボトル。艶やかでオトナな雰囲気が漂う“ここ”は、“会員制クラブ”だ。普通のサラリーマンからお忍びで来るVIPまで、お客は様々。要は、“ちょっと高い水商売の店”である。
思い返せば、ここで働き始めたのは、ちょうど成人した頃だったか。夜の仕事に足を踏み入れるのは相当勇気がいったが、抱えている借金の額は、純粋な私の躊躇を一瞬で吹き飛ばすほどのものだった。
唯一良かったのは、目の前の先輩“ミユキ”ら、従業員に恵まれたことだ。ここは、女社会特有のマウントやいびり、嫌がらせが何一つない。それに、この店は周りの同業店より少し敷居が高いだけあり“ルール”がきちんと定められていて、度を超えたセクハラは、そうそうかち合わなくて済む。



