このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~


にこ、と、彼は微笑んだ。心情を察せない鉄壁の仮面に動揺が走る。

“口実”?どういうこと?

すると、その時。奏さんは、すっ、とスーツの胸ポケットから一枚の封筒を取り出した。まばたきをする私に、彼は表情を崩さない。

テーブルの上に、トン、と置かれた封筒に、目が釘付けになる。


「えっと…、これは…?」

「“小切手”。」

「え!」

「ここに、“1000万”がある。君にあげるよ。」

「?!!」


予想外のセリフに、心臓が止まった。

目を見開く私。

しかし数秒後。この衝撃を遥かに上回る爆弾が彼の口から放たれたのだ。


「ーー借金がなくなれば、君が律との見合いを受ける必要もなくなるだろう?話はそれだけ。」

「…!」

「俺の言葉の意味、わかる?」


どくん…!


応接室の空気が、ピン、と張り詰めた。今までとは百八十度違う緊張感が流れる。言葉の意味を察すると、彼の穏やかな表情が本当に“仮面”であったことに気付く。

“律との見合いを受ける必要がなくなる”

それは、遠回しに“この金をやるから榛名家とは縁を切ってほしい”ということか?表情一つ変えずにさらり、と言われたものだから、すぐには理解が追いつかなかった。