“流される”


酒の酔いが今さら回ったか。はたまた、彼の熱に溺れたか。くた…っ、と体の力が抜けた、その時。彼は、そんな私の反応を察し、ぴたり、と動きを止めた。

それは、唇が触れ合うまで数センチ。

キスというには、あまりにも近く、遠い距離だった。


ーーすっ。


(…!)


押し倒すような姿勢から、体を起こす彼。

視線を逸らした榛名さんは、顔を伏せ、くしゃ…っ、と前髪をかきあげた。


「ーー悪い。」


最後に耳に届いたのは、その一言だった。

くいっ!と腕を引かれ、起き上がる私。肩にかけられたブランケットが、ふわり、となびく。はだけたドレスを隠そうと、彼は宝物でも扱うように私を包んだ。ブランケットから覗く肌には、決して触れようとしない。


ーーそれから、彼は何も言わずに部屋を出た。

後から榛名さんに呼ばれたらしい日笠さんが迎えに来ても私はずっと放心状態で、ネックレスをなくした首元には、彼の触れた熱がいつまでも居座っていたのだった。