息が、止まった。
これは夢か?
ひどく現実味がないホテルの部屋。最上級の口説き文句。恋愛経験皆無の私。
見つめ合う数秒が、ひどく長い。
そして。やがて沈黙を破ったのは、考えることを放棄した私の心から出た一言だった。
「こ、このお見合い、謹んでお断り申し上げます!」
「それを言うなら、“謹んでお受けいたします”だろ?」
文法の間違いを指摘されたのか、ビジネス用語を教えられたのか、はたまた納得できないと突き返されたのか。キャパオーバーの私の頭は、それすらも考えられなくなっていた。
それにひきかえ、何やら楽しそうな彼は、クールな表情を変えない割に、面白そうなおもちゃを見つけた子どものような瞳で私を見つめる。
「かっ、帰ります…っ!」
とっさに踵を返す私だが、その腕を掴んだ彼は容赦がない。
「清算しないと扉は開かない。それに、もう終電はないだろう。」
「えっ?!」
「ここに風呂もベッドもある。朝になったら帰ればいい。」
「?!!!!!!」