(“ハルナホールディングス”って、あのハルナだよね。しかも、“副社長”って…?)
「あの、榛名さん、今おいくつですか…?」
「今年で二十九。」
若い。この若さで副社長だなんて、どれだけ切れ者なんだ?
しかし、どことなく漂う品と色気は、明らかに一般人ではない。精錬された立ち振る舞いに、ブランド物のスーツと装飾品。微かに香る香水も、きっと目玉が飛び出るほど高級なものなのだろう。
つまり、名刺が偽装されているわけではない。
それに、名字が“榛名”って。確か、ハルナホールディングスの社長には、二人の息子がいたような。
(まさかこの人、ハルナホールディングスの社長の息子…?)
「俺のストーカー容疑は晴れたか?」
「えっと…、はい、すみません…。でも、“見合い相手”っていうのは、一体…?」
「言葉の通りだ。…まさか“未来の奥さんに逃げ出される”とは思わなかった。」
(ーーえ。)
ピキッ、と空気が凍りついた。
さらりと告げられたセリフ。怒っている、というより、こみ上げる笑いを必死でこらえている、といったようなトーンだが、思考回路がショートした私にとって、それは爆弾以外のなにものでもない。
「いやっ、ち、違います…!その…、お見合いをすっぽかしたのは真実なんですが、私のお相手は榛名さんでは…!」
「それ、お前の弟も言っていたな。何を勘違いしているのか知らないが、お前の旦那候補は俺だ。」



