ふっ、と笑った彼は、今回の旅行を相当楽しみにしてくれていたらしい。
私も昨夜パッキングをしながら浮かれていたのは確かだが、律さんのように余裕のあるクールな人はあまり感情を表に出さないから困る。きっと、仕事だって分刻みのスケジュールを無理して詰めてくれたんだ。こんな不意打ちに幸せそうな顔をされたら心臓がもたない。
「私も、旅館に泊まるの楽しみでしたよ。浴衣を着れるのも旅館の醍醐味ですし、あとは…“温泉卓球”とか?」
「あぁ、それも定番だと聞くな。百合がやりたいなら後で行こう。」
“温泉”、とくれば“卓球”。
そんな安易なイメージがすぐ頭をよぎる私だが、他人事のようにそう答える彼は、あまり経験がないらしい。
たしかに、律さんを温泉卓球に当てはめてもうまく想像がつかない。彼が幼い頃、兄の奏さんと卓球をしていたのだとすれば、それはそれで可愛らしいが。
その時、律さんはこくり、と一口お酒を飲み、小さく呟く。
「百合と旅行をしたかった。それは本当だ。…だけど俺はただ、ちゃんとやり直したかっただけなんだよ。」
「“やり直す”…?」
「あぁ。…“あの日”の続きをな。」
(え…っ?)
彼のセリフに、目を丸くする私。
どういうこと?、と彼を見上げていると、律さんは小さく笑って私に告げた。
「百合がすっぽかした“見合い”の続き。」
「…!!」


