話が見えない私をよそに、“ブチ切れ喧嘩モード”の紘太は、すっ、と拳を構えて顎を引く。


「榛名さんも下がっててください。危ないんで。」

「っ!……え?」


困惑する律さんだが、もう止められはしない。正当防衛だといえばそうなのだろうが、普段の子犬のような紘太からは想像できない“オオカミ”っぷりに開いた口が塞がらなかった。

…と、固唾を飲んで紘太の背中を見つめていたその時、辺りに響いたのは、聞き覚えのある艶のある声だ。


「ーーさすが、百合ちゃんの弟は勇ましいな。けど、暴れる必要はもうないよ。」


はっ!と声の方に視線を向ける。

すると、そこにはネクタイを緩めた軽装の奏さんの姿が見えた。

ヤケになって襲いかかる男を流れるように躱した奏さんは、素早く残りの敵の手を縛り上げて涼しい顔をしている。


(す、すごい…!) 


ウーッ、ウーッ、ウーッ!


鳴り響くパトカーのサイレン。救世主の二人の登場に合わせ、警察が到着したようだ。

それはまさに、“形勢逆転”。

律さんに押さえつけられている真人も、顔面蒼白だ。もはや抵抗する気も失せたらしい。手錠をかけられ、「くそ…、くそ…っ!」と顔を歪めている。

やがて、次々と警察に連行されていく男たち。

思わずへなへな、としゃがみ込んだ私に、おばあちゃんが、そっと耳打ちした。


「なんだかすごいことになったわねえ…!サスペンスドラマの撮影みたいだわ…!」

「お、おばあちゃん…」