そう思った時には、すでに律さんは真人に向けて拳を構えていた。舞降る金に気を取られていた真人は、とっさの攻撃に受け身すら取れない。


ーードッ!!


鈍い音とともに溝落ちに深く入る一撃。低く唸り声を上げた真人は、ドサ、と呆気なく地面に倒れる。素早くマウントをとって押さえ込んだ律さんだったが、真人が雇った男達は律さんに標的を定め一気に戦闘モードだ。

まずい、彼一人では太刀打ちできない。


「律さんっ、危ない!!」


ーーと。私の叫び声が飛び、律さんが険しく眉を寄せたその時だった。


「てめーら、何やってんだ…!!」

「「!!」」


ばっ!と律さんを庇うように割って入った“青年”。襲いかかる男達を次々と殴りつけ、容赦なく地面に沈めた彼の顔を見た瞬間、私は目を見開く。


「こ、紘太…っ?!」


それは、紛れもなくバイト先のカフェにいるはずの弟だった。怒りを宿した獰猛な瞳で男を睨みつける紘太は、素早くこちらを振り返る。


「大丈夫か、ねえちゃん…!怪我は?」

「な、ないない、平気…!って、それよりどうしてここに…!」

「いてもたっても居られなくて、ばあちゃんの家に向かおうとしてたら、“榛名さんの知り合い”が車に乗っけてくれたんだ。」

(“榛名さんの知り合い”?)