(もしかしてこの人、知り合いのフリをして私を助けようとしてくれている…?)

いくら記憶を辿っても、こんなイケメンの知り合いはいない。ましてや、生き別れの兄弟なんているはずがない。

するとその時、ぐいっ!と抱き寄せられる体。先ほどの今井のそれとは違う、庇うような温かな腕に思わず胸が高鳴るが、ピンチに颯爽と現れた彼は、さらに私の予想をはるかに超える爆弾を言い放つ。


「“今夜は一緒に過ごそうと思っていたのに”。…俺という“旦那”がいておきながら、夜遊びとは感心しないな。」

「っ、へっ?!」


“旦那”?誰が?

今夜は一緒に過ごす?

まさか、そういう“設定”?


「ひ、ヒビキちゃん…っ?」


耳に届いたのは、今井の動揺したような声。

すると、私の肩を抱いたまま、すっ、と視線を上げた“彼”は、わずかにまつ毛を伏せて鋭く言い放つ。


「ーー“俺の嫁”になにか?」

「っ!」


牽制するような低いトーンに、びくり!と震えた今井は、「い、いえ…!」と首を振る。“彼”は、それを見るなり小さく息を吐き歩き出した。