素早くスピーカーモードに切り替える私。
見守る律さんの隣で、焦って電話越しに叫ぶ。
「紘太!無事?!今どこにいるの?!」
『へっ?ど、どこって、バイト先のカフェだけど…?』
「今すぐ駅前の交番に逃げ込みなさい!誘拐されるわよ!!」
『?!な、なに急に?意味分かんないんだけど…?!』
動揺しているようだが、いつも通りの紘太の声。
真人の魔の手は迫っていないようで、ひとまず肩の力が抜ける。
「紘太くん。律だ。店に変な客は居ないか?人相の悪い黒づくめの男だ。」
『えっ?!律さん?!…ええっと、店には女の子しかいないみたいです。…今、ねえちゃんと一緒にいるんですか?一体何があったんです?』
「逢坂真人が裏家業の奴らを雇って、金目的の事件を起こしたんだ。百合は誘拐されかけた。おそらく、紘太くんも狙われているだろう。」
『!!』
やっと状況を理解したような紘太。
ひどく現実味がない話だが、紘太は、私と律さんの切迫した声にリアルだと受け止めたらしい。やがて、動揺を押し込めた冷静な彼の声がスピーカーから響いた。
『俺は、今のところ大丈夫。…ねえちゃんが無事で良かった。…真人が狙いそうな逢坂の身内は、俺とねえちゃんくらいだよな。…自分で言うのもなんだけど、親戚には縁切られてるし。』



