私は、はっ!として鞄を漁った。手に取ったのは、別れ際に奏さんに貰った花柄のワイヤレスイヤホンだ。
そういえば、ワイヤレスイヤホンにはGPS機能が搭載されているモデルも多い。まさか、奏さんは全てを見越してこれを預けてくれたのだろうか。
「ハルナプロで不審者を見つけた時は、事務所タレントのストーカーの線もあって、確証が持てなかったらしい。…奏には“念のため”、と言われたが、来て良かった。」
律さんは、そう呟いて小さく呼吸をした。見たこともないほど真剣な彼の瞳。相当心配をしてくれた、ということがひしひしと伝わってくる。
「ごめんなさい、迷惑をかけて…」
「謝るな。半分、俺が巻き込んだようなものだ。…それにしても、一体あの男どもは何だ?どこかの詐欺集団か?」
その瞬間、私は、はっ!と目を見開く。それと同時に、血の気が引いた。
「あいつらは、私の叔父が金で雇った人達なんです。真人は、律さんや私の家族を脅して金を取ろうと目論んでいます。…紘太が…、紘太が危ない…!」
律さんの顔つきが一変した。
切迫した状況を理解した彼は、素早く答える。
「百合!電話だ!」
「っ、はい…!」
震える手を必死に動かし、スマホを耳に当てる。
どうしよう。これで、すでに弟が真人の手に落ちていたら。金目的で身代金を要求するならまだいい。真人は、実の兄をも手にかけた男だ。奴が紘太に危害を加えていたら。そう思うだけで胸が張り裂ける思いだった。
…と、神に祈るように目を閉じたその時。ブツ!と呼び出し音が繋がる。
『ーーもしもし、ねえちゃん?どうした??』
「「!」」



