穏やかな声。私を落ち着かせるように背中を撫でる彼の手は優しい。ひっく、ひっく、と止まらない嗚咽に、律さんは長い間何も言わずに私を抱きしめ続けた。
シャツ越しに感じる彼の体温と、一定のリズムを刻む心臓の音。私を包む彼の匂い。その全てに、硬直していた体の力が抜けていく。
そして、手の震えが落ち着いた頃、私はようやく彼の胸から顔を上げた。
「…すみません……、シャツ…汚れちゃう…」
「気にするな。…無事で良かった。」
ぽんぽん、とあやすように私を撫で続ける彼。
気持ちが整理され、私はおずおずと彼に尋ねる。
「あの、どうして助けに来てくれたんですか…?」
「少し前、兄貴から電話が来てな。百合を尾けてる変な男がいるから保護しろって。」
「奏さんが…?」
律さんの話では、ハルナホールディングスの敷地にある防犯カメラに私を尾け回す不審者が映っていたらしい。運良く私を助けてくれたようだ。
それに気づく奏さんもすごい。
「よく私の居場所がわかりましたね?」
「奏から百合の所持品のGPS情報が添付されてきた。…心当たりはないか?」
「“GPS”…?」



