その時、“真人がここにいない”、という意味にやっと気付いた。脳裏をよぎったのは、今の状況を何も知らないであろう“弟”の姿。
「あんた、紘太に何かするつもり…?!」
『ははっ!何もしないさ。お前が俺の要求をのんで、あの金持ちから金を盗ってくるならな。』
「…っ!!いい加減にして!そんな誘いに乗るわけないでしょう!」
すると、真人は痺れを切らしたように、ぼそり、と低く告げる。
『…それなら仕方ない。なら、まず手始めに、“お前を誘拐して”御曹司に身代金でも要求してやる。』
(え…っ?!)
その瞬間。真人との電話が途切れると同時に、物陰に隠れていたらしい男達が、ばっ!と路地に現れた。数は、ざっと四人。真人に金で雇われた奴らなのだろうか。見事なまでの悪人ヅラに、ぞくり、と震える。
素早く辺りを見回すが通行人は見えず、駆け込める交番もない。助けを呼ぼうにも、警察に電話をかける余裕もなさそうだ。
身の危険を感じ、体が硬直する。逃げたいのに、恐怖のあまり足が動かない。叫ぶだけの声も出なかった。
(ーー誰か…、助けて……!!)
ーーと。無意識に涙が溢れた、その時だった。



