“まずい”
そう思った時には、すでに遅かった。
やや強引に引き寄せられる体。肩を抱く腕はビクともせず、その足はまっすぐホテルに向かっている。
「あの、今井さん…!ウチの店は、そういうサービスはしてないんで…っ!!」
「わかったわかった。二人だけの秘密にしといてあげるから。」
「そういうことじゃなくてっ!」
ダメだ。
このままじゃ、確実に連れ込まれる。だが、助けを呼ぼうにもアテがない。
周りはほぼ人通りがなく、大通りへ出るには路地を抜ける必要があり、交番は駅前。電話で紘太を呼ぶわけにもいかないのだ。
「待ってください!本当に、私…!」
抵抗しようとも、敵わない力。
…と。この先起こるであろうことが、ワッ!と頭の中に流れ込み、ぞくっ!と背筋が震えた
その時だった。
「ーー何をしている。」
(!)
ぐいっ!と、今井の腕が私から引き剥がされた。
声の方を振り返ると、そこに見えたのは予想外のシルエット。
ーーダークブラウンの髪に、色気のある切れ長の瞳。ブランド物のスーツをさらりと着こなす彼は、二十代前半と言っても通じるほど若々しいが、どこか大人の品が漂っている。
しかし、俳優かと見間違えるほどの甘いマスクの男性の表情は、鬼のように険しい。
「ーーまったく。心配して迎えに来てみれば…。どこへ行くつもりだ。」
(え…っ?)



