どくん!
その名を聞いた瞬間、嫌な胸騒ぎがした。動揺を必死で抑え、私は真人へと答える。
「…何かの勘違いじゃないですか?私がセレブとは縁遠い貧乏人だと、叔父さんも知っているはずでしょう?」
『はっ。今更とぼけたって無駄だ。こっちは、お前とは縁のないタワーマンションから男と二人で出て来る所を何度もおさえてるからな。』
「!」
まさか、ここ一ヶ月の日常を監視されていたとは思わなかった。関係を誤魔化そうと思ったが、もう手遅れらしい。真人の企みを図りかね、私は警戒しつつ言葉を続けた。
「一体、何が目的なんです?」
すると、数秒後。私の予想を遥かに超える爆弾発言が、電話越しに耳に届いたのだ。
『ーー百合。お前、ハルナホールディングスの御曹司から金を奪いとって俺に渡せ。』
「っ!!」
『マンションに通うくらいなら、それくらい余裕だろ。…額は、そうだな…車が買える値段でいい。』
何を言っているんだ、この男。
理不尽な要求に、ぐっ!と掌に力がこもる。…こいつは、かつて父に金の無心に来ていたような男だ。私が“金ヅル”になると情報を手に入れた瞬間、利用しようと近づいて来たに決まってる。
「お断りします。貴方に渡すお金なんか、一円もありません。」
『つれないな…。いいだろ?お前は玉の輿に乗って豪遊出来るんだから、三割くらい身内に金を流したって。』
「ふざけないで…!私は、お金目的であの人と一緒にいるんじゃない!」



