**
「はぁ、疲れた。…今日のご飯、何にしよう。」
ーー日が暮れ出した、午後五時半。
早めに業務を終えた私は、御用達の節約料理アプリを見ながらアパートへの帰路についていた。
(…たしか、人参とジャガイモは家にあったよね。今夜はカレーにしようかな。律さんと作った時の未開封ルーもあるし…)
…と。そんなことを考えながら歩いていると、ブブブ、とスマホが鳴る。画面に表示されたのは、“非通知”の文字だ。
(え…?)
一瞬、どきりと音を立てる心臓。動揺しながらも、私は恐る恐る電話を取る。
「…もしもし…?」
ーーとその時。スピーカーの向こうから聞こえたのは、聞き覚えのある低い男の声だった。
『…久しぶりだな、百合。今日は、“彼氏”の迎えはないのか?』
「!」
ぞくり、と震える背中。
はっ!と辺りを見回すが、人影はない。
「…一体、何の用です?“真人叔父さん”…」
電話の相手は、縁を切ったはずの父方の弟、真人であった。クルージングでの一件が脳裏をよぎり、緊張感が高まる。
『そんなに警戒するなよ、百合。キョロキョロしたって、俺はそこにいないんだからな。』
「…っ!」
どうやら、私の情報は彼に筒抜けらしい。ここにいないと言っても、奴の部下か何かがどこかから監視しているのだろうか。そう察した瞬間、恐怖心が募った。
「…どうして、私の番号を知っているんですか?」
『はははっ。このご時世、調べようと思えば個人情報なんてすぐに特定できるんだよ。…今日は、“取り引き”しようと思って連絡したんだ。』
「“取り引き”…?」
『あぁ。…お前が、“ハルナホールディングスの御曹司”と懇意になってるみたいだからな。』



