重なる二人の視線。
耐えきれない私は、恥ずかしさのあまり彼の胸に顔を埋めた。なんてことを口走っているんだ。だが、ただ雰囲気に流されたわけではない。“そうなりたい”と、心から思えた。
「…百合。」
耳に届く彼の声。少し戸惑っているようなトーンが、頭上から降り注ぐ。
「…自分の言葉の意味を、分かっているのか?…俺は男だから、百合が欲しい。…だが、体が目的だとは思われたくない。撤回するなら今だ。」
「…!」
「恥ずかしいなら何も言わなくていい。…あと“十秒”、俺の腕から逃げなかったら、このまま連れ帰る。」
ーーどくん!
カウントダウンが始まった。
抱きしめる腕は、優しかった。きっと、離れようと思えばすぐに解ける。すでにキャパオーバーになっている私が何も言えないのも、全部お見通しだ。
…なら、もう気付かれているだろう。
私に、逃げる意思なんてないことを。
ーーぐいっ!
離れた体。さっきよりも強く腕を掴まれた。彼に引かれて歩き出す足。律さんはこちらを振り返らない。
「…行くぞ。家に着くまでに心の準備をしておけ。
ーーもう遠慮はしない。」
そっ、と告げられた“忠告”と私に触れた肌の熱さが、彼の色香と欲情を私に暗に伝えたのだった。



