思わず、ぴくん、と肩が震えた。
離さなかったら、どうなる?
キスのその先を考えて、思考を止めた。それは、私の知らない領域だ。彼から聞こえる心音は私と同じくらい速い。律さんは、小さく息を吐いた。
「…なんて、さすがに余裕がなさすぎだな。…百合も今日は疲れただろ?」
私を抱き寄せたまま、そっ、と指で頬を撫でられる。優しく気遣うような仕草で、長い指が愛おしそうに私に触れた。こちらを見下ろす視線は、熱を必死で押し込めるようにもどかしげに揺れている。
“ーー百合。俺は必ず、お前を惚れさせてみせる。”
頭をよぎるかつてのセリフ。
獰猛なようで甘い彼の表情。
あの時から、彼に落ちる予感はしていた。
”今日のところはこのまま見送る。だけどいつか、“帰りたくない”って言わせてやるから覚悟しておけ。”
…きゅ…っ!
彼のシャツを掴む手に力を込めると、律さんの吐息が止まった。驚いたように見開かれる切れ長の瞳。月明かりと街灯が照らす遊歩道で、彼にしか聞こえないような私の声が、確かに響いた。
「…帰り、たくないです…」



