このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~



ーーピタ。

立ち止まった私。彼は、数秒後に気がついてこちらを振り返る。彼は、ぱちり、とまばたきをして不思議そうに私を見ていた。「どうした…?」と声をかけられると同時に、私の声が重なる。


「…律さんは、まだ、自分が“片想い”だと思ってるんですか…?」

「…!」


空気が変わった。

ひどく驚いたような彼の瞳。その言葉は予期していなかったようで、彼は、ただ黙って硬直している。


「こんな、お姫さまみたいに大事にされて、いやでも愛されてるって分かるくらい言葉をくれて。…好きにならない人はいないと思います。」


自分でもびっくりするくらい、素直じゃない言い方。こんな遠回しに気持ちを伝えるつもりはなかった。あぁ、こんなことなら、ちゃんと恋愛をしてくればよかった。まっすぐ彼の心に届くような、最高の口説き文句を私が言えたら…きっと、こんな心臓が飛び出るほどの緊張はしなくて済んだだろう。


「…今、なんて?」


沈黙の後、やっと聞こえたのはそのセリフだった。処理が追いついていないらしい彼の脳。天然な彼には、やはり直球ドストレートな告白しか伝わらないのか?


「…だ、だから、その…律さんは素敵だし、私はちょろいから…。もうとっくに……、っ?!」


全てを言い終わる前に、ぎゅっ!と強く抱き寄せられた。

止まる呼吸。

彼の男らしい腕が私を包み、ふわりと香水が香る。その全てが、私の思考を止めた。 


「…本当か?」

「え…?」

「俺にこうされても嫌じゃないか、と聞いている。」


頭が、真っ白になった。緊張が高まりすぎて、おかしくなる。

ぎこちなく背中に回した手に、律さんは小さく目を見開いた。きゅ…っ、とシャツを掴むと、声が震える。


「嫌じゃ、ないです。…律さんなら…」