「…今日は、ありがとうございました。」
ふいにそう告げると、彼は穏やかに私へと視線を下げた。
「デートの感想は?」
「…!…幸せでした。すごく。…でも、なんだか幸せすぎて怖いです。」
「怖い?」
「はい。…素敵なアクセサリーを貰って、コンサートを聴いて、私にはもったいないほど贅沢な時間を過ごして…日付が変わったら“シンデレラ”みたいに、魔法が解けちゃうんじゃないかって。」
思わずそんなことを口にすると、律さんは表情一つ変えずに私に答える。
「一夜で終わらせてたまるか。明日も明後日も、この先ずっと…百合が俺の隣にいてくれるなら、俺の出来る限りの力でお前を幸せにしてやる。」
「…!」
「前にも言っただろ?“俺の行動原理はお前”だ。百合が笑ってくれるなら、何だってするよ。…まぁ、シンデレラみたいにカボチャの馬車が欲しいと言われたら、発注に時間はかかるだろうが…」
ーーこの人は、本当にずるい。
私の悩みや不安を全部飛び越えて、心を掴んで離さない。こんな強引な魔法使い、きっとどこにもいないだろう。カボチャの馬車なんていらない。ぶっ飛んだ天然発言も、今となっては私の心を震わせる要素に他ならなかった。
すると、彼は自嘲気味に小さく笑い、睫毛を伏せる。
「…俺は必死なんだ。惚れた女に好かれたくて。」
「!」
「物をあげたり、何かと理由をつけて会いに行ったり、百合の望むものを全て叶えて甘やかしたい。俺は、そういう不器用な愛し方しか分からないから。ーー例え、お前が俺を男として見ていなくてもな。」



