「…本当に、贅沢ですね。」
「ん…?」
「だって、こんな大きなホールを貸切で、私のためだけに律さんにピアノを弾いて貰ってるんですよ?…独り占めなんて、贅沢すぎます。」
きっと、このグランドピアノだって相当高級なものだ。ハルナホールディングスの楽器の中でも最高クラスのピアノだろう。
“特権”を使って、閉演後のホールに二人きり。誰も来ることがない、特別な空間。
もしかしたら、ここが人生の幸せのピークかもしれない。
その時、律さんが小さく囁いた。
「…次で最後。もう曲は決めてあるんだ。」
「?」
そっと彼の顔を覗き込む私。穏やかな彼の表情からは、何も察せない。
「私の知っている曲ですか?」
「あぁ。…きっと、子どもから大人まで知ってるだろうな。当てたら飴でもやろう。」
「!…ええと…、“運命”、とかですか?ほら、じゃじゃじゃじゃーん、ってやつ…」
「ハズレだ。」
くすり、と笑った律さん。
そっ、と鍵盤の上に指を置いた彼は、クイズの答えにワクワクする私の隣で、小さく息を吸ったのだった。



