このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~


いつの間に…?、なんて問いを投げかける間もなく、私は彼に連れられるがまま、ホールへと足を踏み入れた。

目の前に、二階席とは違う臨場感のある光景が広がる。降り注ぐ淡い光を浴びるグランドピアノ。それは、白いライトに照らされていたコンサートの時とは全く違う楽器に見えた。


ーーコツコツ…


思わず立ち止まってその神秘的な光景に見惚れていると、まっすぐステージへと歩み寄った律さんは静かに鍵盤へ指を乗せる。


〜♪


彼は、片手を滑らせるように鍵盤に触れた。淡い光に照らされたその姿があまりにも綺麗で、言葉を失う。


「ーー百合。おいで。」


名を呼ばれ、はっ、とした。

静かに彼の元へ駆け寄ると、ギ…、と椅子に腰掛けた彼。トントン、と椅子を指しこちらを見上げた律さんに導かれるまま隣に座る。触れ合う肩から体温を感じられるほど近い二人の距離に緊張していると、艶やかな笑みを浮かべた彼は、その薄い唇を開いた。


「…リクエストはあるか?」

「え…?」

「お前のためだけに弾いてやる。」


どきん…!

不意打ちの展開に胸が高鳴った。まさか、こんな豪華な“アンコール”があったなんて。曲名に疎い自分を今更反省する。


「何でも嬉しいです。…ええっと…、律さんのお気に入りの曲を聞きたいです。私のイメージで、なんとなく。」

「百合のイメージ?…バーテンダーにでもなった気分だな。」