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『榛名さま、お待ちしておりました。どうぞ、お席は二階正面です。』
ーー開演三十分前。
余裕を持って到着した私達は、受付を済ませ、案内された“関係者席”へと向かった。広いホールはオペラ座のような配置となっていて、細かな装飾までこだわった職人芸があちらこちらに見受けられる。
ステージ全体が見渡せる二階席からの眺めはよく、周りに人がいない故、“プレミア感”をひしひしと感じた。
「この椅子、ふかふかで気持ちいいですね…。雲に座ってるみたいです。」
「一応、VIP席だからな。幅も一般席より広い。」
「…!こんなに贅沢して、叱られそう…」
「ははっ、誰にだ?誕生日くらい贅沢したって良いだろう。」
「すみません、慣れていないもので…」
ソファのような背もたれに寄りかかると、二度と立てなくなる程のフィット感だ。VIP席なんて、そうそう座る機会がない。きっと、人生で最初で最後になるであろうプレミアシートを満喫しながら、受付でもらったプログラムに目を通す律さんの横顔にこっそり見惚れていると、やがて演奏者によるプレトークが始まった。



