(最悪。…それで、この店で狙われているのが“私”ってこと?)
今までも、足を触られたり肩を抱かれたり、その程度のセクハラは何度かあった。
この店で働く以上、少しばかりは覚悟していたつもりだが、やはりタイプでもないおじさんに触られるのは良い気はしない。
(借金返済のため…。これは、もはや修行だ。)
そんなことを念仏のように心の中で唱えながら、私は一人更衣室を出た。
数時間前までは、清楚なお見合いの振り袖を着ていたなんて信じられないほど露出の多いドレスを身にまとい、コツコツ、とフロアを進む。
ーーふっ。
その時、ふと視界の隅にあるシルエットが映った。
それは白いシャツと紺のタイトスカートをあわせた綺麗な女性で、店の雰囲気とは異なる品がある。連れの男性と来ているのかと思ったが、どうやら彼女は一人らしい。
(珍しいな、女性のお客さんなんて。)
ぱちっ!と、一瞬視線が交わる。
微笑まれたような気がしたのは、気のせいだろうか。
「ーーお、ヒビキちゃん!待ってたよ〜。今日も可愛いね。」
やがて、私を指名した彼のテーブルへと着く。
見事なまでの営業スマイルを浮かべ、私はサラリーマンの隣に腰かけた。
「また会いに来てくれたんですね〜。ありがとうございます。」
「もちろんだよ。ヒビキちゃんのためなら、俺、何本だってボトル空けちゃうよ?」
そっ、と流れるように抱かれた肩。
(昼間のオッサンと結婚してたら、こんな感じだったのかもしれないな)
私は、体と思考を切り離すように、ぼんやりとそんなことが頭をよぎっていたのだった。



