1階に降りて、庭に行く扉を開いた。
木彫りのベンチには颯介が座っていた。
月を見上げて、少しの微笑みを浮かべながら。
『そっ颯介さん!』
私の小さな声で颯介は振り向く。
私を見る颯介は昼間での颯介とは何だか違って見えた。
そんな颯介はクスっと笑みを浮かべると
『颯介でいいよ。隣おいで。』
と自分の隣を叩く。
行っていいの…?
急に変わった態度に戸惑いながら颯介の隣に座る。
『眠れないの?』
私の問いかけに、颯介は
『月が出てるから。』
とちぐはぐな事を言う。
月?
確かに月は出てるけど、雲に隠れて殆ど見えない。
そんな事を思う私に
『僅かだけど、月が出てる。まるで気付いて欲しくて一生懸命、光を照らしてる』
そう呟くと私の方を見た。
まともに顔を見られた気がして、恥ずかしくなり思わず顔を背けると
『椿?』
名前を呼ばれて驚いて、颯介の顔を見る。
そうすると突然、颯介の手が顔に近付いてきた。
『椿?泣いたの?涙の跡がついてる』
そう言って私の頬に触れる。
颯介の手はヒンヤリと冷たくて
思わずビクッとなった。
そんな私を見てクスクス笑う颯介。
『泣いても…誰も助けてなんてくれないよ?』
そう呟いた。