目の前に置かれたグラスに先に天宮さんが手をつけた。


「飲まないの?その甘ったるいミルクティー」


完全に、子ども扱いされる。


「ミルクティーが好きなんです」


そう言ってミルクティーに口をつける。甘い甘いミルクティーが喉を通る。


甘い筈なのに、苦く感じた。



「私と彼の付き合いはもう10年以上になるわ」


颯介の事をわざわざ“彼”と呼ぶ事がまるで特別だって言っている様に聞こえて仕方がない。


「だからね・・・貴方が入る余地なんて無いの。でも時々、夜中に会っているでしょ?」


その言葉に体がビクっとするのが分かった。


二人だけの秘密だと思っていた。


「・・・っ・・!」


返す言葉が無い私をあざ笑うかの様に


「月が見える時だけ貴方の方を見てくれてる?ロマンチックな関係だと思っているの?」


とヘビの様な目で私をジッと見る。


「・・・そんな事思っていません」


ぎゅっと膝の腕で拳を握りしめる。


「彼は月が出ていても出てなくても、私を呼ぶわよ。だって彼には私が必要だから」


そう言ってクスっと笑った。


「・・・でも颯介は・・私の傍にいてくれるって・・」


約束した。傍にいるって。離れないって約束をした。


「まるでおままごとね。彼の苦しみを何も分かっていない癖に」


そう言った天宮さんの目は恨み籠った様な目だった。


「・・・苦しみ?」


颯介は何に苦しんでいるのだろうか?


「彼の苦しみを分かってあげれるのは私だけよ」


そう言って天宮さんはテーブルの上にあった伝票を手に取り立あがった。


「あっ!自分の分は自分で払います!」


奢られるなんて絶対に嫌だと思った。


そんな私を軽蔑したような目つきで、


「そのお金は信也さんから恵んでもらっているお金でしょ?偉そうに言わないで頂戴」


そう言われ何も言い返せなくなった。


押し黙る私に、天宮さんは微笑み


「それでは、椿さん気を付けて学校に行って下さいね」


とレジの方に消えて行った。