陽介の走って行く背中を見ながら、自分の思考に蓋をする。
違う。私は逆襲なんかしたくない。陽介に言わなかったのは、悲しい顔を見たくなかったから。それだけだと自分に言い聞かせる。
「…のさん!」
「西園さん!」石田さんが、私を呼ぶ声がした。
「あっ、石田さん。処置終わった?」気付けば、石田さんが私の前に立っていた。
「うん。終わったよ。本当にごめんね。私がバランスを崩しちゃったから。」と謝った。
「大丈夫!気にしないで」微笑む私に、石田さんは何故かジッとこっちを見据える。
「…どうかした?」
「ううん。何でもないよ。」
『次の競技は3年生による、借り物競走です。出場者の生徒は入場門に…』
アナウンスが流れた。
颯介の出番だ、そう思うと胸がドクドクと音を立てる。
「西園さん、私はクラスに戻るけど、どうする?」
私はクラスに戻ると、きっと颯介から見えないなと思ったので
「私はここでもう少し休憩してから行くよ」そう答える私に石田さんは、分かったと頷いてクラスの元に戻って行った。
颯介から見える場所…。
私は颯介が考えている“逆襲”に乗ろうとしている。
本当に最低最悪な人間だ。そう思ったけどその場所から動く事は出来なかった。
