颯介に「椿が…“陽介”の事ばっかりだからだよ…」と言われてから1週が経ち、体育祭当日の朝がきた。


あれから、颯介と話す事は無かった。それはこの一週間天気が悪く、月が出ていない所為だと自分に言い聞かせる。


進藤先輩から連絡がくる事もなく、何でもない日が続く一週間だった。


相変わらず、陽介は私に笑顔で話しかけてくれるし、美月とも食堂でご飯を食べたりメールしたりと、特に代わり映えは無かった。





「…眠い…」お弁当を作る為に、この日は6時に起きた。


欠伸をしながら、階段を降りて行くと玄関で靴を履き替えている陽介がいる。


「陽介?おはよ。早いね」私の声に振り向く陽介。


「椿!おはよ!最後の走り込み行って来る!椿も早くない?」と微笑む。


誰のお陰で早起きしたと思ってるの!?と心の中で思ったけど「気をつけて行ってね」と送り出した。



私は陽介を見送り、「よしっ!」と小さく気合を入れてキッチンに入る。


既にマリ子さんが忙しなく準備をしていた。


「椿さん、おはようございます。さぁ初めましょうか!」と朝の5時とは思えない、ハツラツとした笑顔を見せてくれ、私も微笑み返す。


マリ子さんに卵焼きを巻くコツを教えて貰ったり、お弁当箱におかずを詰める順番を教えて貰っていたら、時計の針はあっという間に、7時半を回っていた。


「完成!」そうマリ子さんとハイタッチをしていたら、そこにジャージーを着た颯介が入って来た。


「マリ子さん、今日はコーヒーじゃなくて紅茶にして。BLUE SKYの紅茶あったよね?」と私に目をくれる事なく言う。


「はいはい。ありますよ。お砂糖とミルクはどうなさいますか?」と食器棚から紅茶の袋を出して準備をする。


その紅茶の袋を見て、ドキッとした。以前、天宮さんに貰って捨てたやつだ…。勿論、ここにある紅茶は別の物だけど心臓がチクリと痛む。


「ストレートで大丈夫。砂糖やミルクで味を誤魔化すのは嫌いなんだ」颯介の言葉で更に、私の心は重くなった。