「ごちそう様」颯介が席を立つ。


「颯介ーたまには皆で一緒に学校に行こうよ」と陽介が声をかける。


「…椿に嫌われちゃうから遠慮しとくよ」とニッコリ笑ってリビングを後にした。


颯介は私の事を全部見抜いている。
狡くて、卑怯な私の心を掴んで離さない。


「何だよ。それー!」と陽介がドアに向かって聞くも、返事は無かった。


颯介には分かってるんだ。私が学校で、人気者の陽介や颯介と一緒に居ると女子達に睨まれる事が嫌な私の心が。


「かわいくねー奴だな!」とブツブツ言いながら朝食を続ける。


私は食べる気になれず、箸を置く。
そんな私を見て


「椿?調子悪い?」と心配そうに聞いてくれる。


「あらあら、椿さん体調がお悪いのですか?」マリ子さんが手元のエプロンで手を拭きながらリビングに入って来た。


そして、「熱は無いみたいですね」と私のオデコに触れ、体温を測ってくれる。


あの手の温かさにホッとする。


「…ううん。大丈夫だよ」そう言って笑顔を作る。


「そう?それなら良いんだけどさ」と優しく笑う陽介。


私の胸はチクリと痛んだ。陽介はいつだって自分の事より他人の痛みを気にしてくれる。私はそんな胸の痛みを消す為に、


「そうだ、陽介。あれから朝までちゃんと寝れた?私、陽介が寝てから部屋出て…」



「わーーーーーーーー!」私の声を遮って大声を出す陽介にマリ子さんがビックリしてしまったのか、片付けていた新聞や雑誌を落としてしまった。


「何事ですか!?」

「いや、何もないよ!」と慌てる陽介は私に顔を近づけ、小さな声で


「昨日の事は二人の秘密で!」と顔を真っ赤にして言った。


“二人の秘密”その言葉が今度は私の胸を熱くする。