颯介は私から離れ、傍にあるベンチに座った。


私も隣に座る。


さっきまでの会話が嘘のように静寂に包まれる。


颯介は黙ってタバコを吸い始めた。
2口程、煙を吐いた後に


「椿」そう私を呼び吸いかけのタバコを私の口元に運ぶ。


私は何も言わず、小さく息を吸った。独特な匂いと感覚が喉を通り体の中に落ちる。


それは嘘ばっかりの自分から開放される感覚にも陥った。


息を吸い息を吐き出す。この単純な繰り返しが心地よいとも思った。


そんな私を見た颯介は、クスクスと笑う。


「よくさ、タバコを吸う女は女じゃないとか、下品だとか世間は言うけど、僕は凛々しいと思うけどな」と言った。


私は何も言わず、フィルターがギリギリになるまで吸い続けた。
そして空を見上げると相変わらず、月が私を見下ろしていた。


陽介と過ごした穏やかで、愛おしい時間の後に、私は残酷で見苦しい時間を颯介と過ごした。

颯介との短い時間で私は、自分の中です眠っていた感情が少しずつ溢れ出てきている事に気付いた--------。