ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

あの世界の、イザヤの館の……私のお部屋からの風景と同じ……。


いや、正確には同じではない。

でも似てる。

ものすごく、似てる……。




「浜辺、行ってくる。注文してて。あ、お父さん、車のキー貸して。」

席に着くなり立ち上がった私を、お母さんが叱った。

「お行儀悪いわよ。食べてから!」


でも、ちょうどお水を持って来てくれたお店の人が助勢してくれた。

「お料理、少しお時間ちょうだいしますので、どうぞどうぞ。お散歩してらしてください。下の浜辺に、アヒルもいますよ。」


「ありがとうございます。行ってきまーす!」


まだ何か言いたそうなお母さんを見ず、私はお父さんの車の鍵を引ったくって飛び出した。


「まいら!ゆっくり!走ったらあかん!」

「はぁい。」


お父さんの声に小さく返事して、店の外に出た。




風……。

爽やかな湖からの風を、懐かしく感じるなんて……。


去来する万感の想いでいっぱいになった。



車から鳥籠を出した。

出たい出たいと、伊邪耶は暴れてアピールしていた。



「うん。おいで。」


籠から出すと、伊邪耶は私の肩に飛びついてきた。

さあっと吹き抜けた風に、ぴよぴよとうれしそうに鳴いている。


「気持ちいいねえ。いざや。」


話し掛けても、今までのようには答えてくれない。


まあ、機嫌はよさそうやから……それでいいか。



言葉を忘れるほど、伊邪耶も怖い想いをしたのかな。



……ごめんね。



伊邪耶か落ちないように、ゆっくりと歩いて浜辺におりた。


なるほど、ウッドデッキ近くにアヒルたちがいた。

白い大きな鳥達を横目に、私は浜辺を歩いた。



……この辺に、イザヤの船着き場があったのかな。


あっちに、温泉の小屋。


カピトーリはあっちで、オースタ島はこっち……。



何度も何度も指で辿ってみた。



湖の向こうの山脈も同じに見えるのに……あの世界はどこにもない。




イザヤは、いなかった。



「イザヤ……。」


呼んでも、返事はない。



……はずだった。


期待もしてなかったのに、はっきりと聞こえた。



あの艶のある美声で、

「まいら。」

と、呼ばれた!




びっくりして、振り返った。



そこには、誰もいなかった。


……だよね……。