ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

お母さんが窓越しに伊邪耶に話し掛けた。


元気な鳴き声。

……でも、やっぱり、何も話さないまま……。



車中も、伊邪耶は、機嫌よくさえずっていた。

少し風を入れると、気持ちよさそうに目を細め、羽ばたいて遊んでいた。



すぐに高速に乗って帰ると思ってたのに、車窓はずっと琵琶湖をうつしていた。

きらきら輝く湖面はどこまでも穏やかで……どうしても、レアダンスモレン湖を思い出さずにはいられなかった。


鳥の伊邪耶も、琵琶湖を見つめているようだ。



「……ね?まいら。」

突然、名前を呼ばれて、顔を上げた。


両親の会話を聞き流していたので、何を言われたのか、よくわからない。


返事に窮してると、代わりにお父さんが答えてくれた。

「はいはい。……まあ、どこかでランチは必要やし。寄りましょ。……でも観光は、また今度な。」


「はぁい。……本当に、絶対、また連れてきてね?絶対よ?」

お母さんがお父さんにおねだりしてる。


どうやら、予定してた観光はやめるらしい。



「ご飯?あんまりごてごてしたのは、食べたくないかも。……サンドイッチぐらいでいい。」

そう主張したら、お母さんが、我が意を得たり!とばかりに、大きくうなずいた。

「そうよね!ほら、ちょうどよかった!行きましょ行きましょ。」


「はいはい。お姫さまたちの仰せのままに。」

お父さんは恭しい口調とは逆に、デレていた。

……お母さんと私がかわいくてしかたない……何でもわがままを叶えてあげたい……。

そんなお父さんの心情が、うれしくもあり、切なくもあった。




私も……お腹に宿ったイザヤの子をちゃんと産んであげられていたら……イザヤもまた、お父さんみたいな親馬鹿になっただろうな。

想像すると、泣けてくる。


イザヤ……。

会いたい……。


もう、会いたいよ。


腕の中の鳥籠で、鳥の伊邪耶が小さく鳴いた。


***


お母さんの来たかったお店は、レストランではなく、古い小さなカフェだった。

湖面を眺めながら、軽食を楽しめるらしい。


お父さんは何度となく来てるそうだ。

……まあ……デート向きの店だよね……うん。

お母さんと出逢う前、もしくはつきあう前に、他の女を連れてきてたのだろうことは想像にたやすかった。



お店に入って、席に通されて……愕然とした。

この風景を、私はよくよく知っていた。