ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

迎えに来た両親が何も言わないところをみると、孝義くんが来てくれたことも知らないのだろう。

……いや。

もしかしたら、孝義くんは、実際には来てないのかもしれない。


私が異世界に行って戻って来たように、私を心配した孝義くんの念だけが来たとか……もっと言えば、私の願望が見せた夢でしかなかったりして。




「とりあえず、当分おとなしくしときや。一週間は、学校も休んだほうがいいな。まいらも。伊邪耶(いざや)も。今は大丈夫に見えても、後から来るかもしれんしな。」

退院手続きが終わるのを待ってるとき、お父さんにそう諭された。


イザヤの響きに、心臓の鼓動が有り得ないほど跳ね上がった。


「イザヤって、……いざや……え?……元気?……どこ?」


異世界のイザヤじゃなくて、鳥の伊邪耶のことだと気づいた。


でも、鳥の伊邪耶は、カピトーリの……伊邪耶のお姉さんのお屋敷に預かってもらって……そこからイザヤを追って逃げてしまったはず……。



「病院に鳥を連れて入るわけにはいかへんでしょ。車にいるわ。……学校もだけど、当然、孝義くんのところへ行くのも我慢しなさいね。え?ちょっと?まいら!走っちゃ駄目!もう!安静はー!?」


「まいらー!ストップ!ゆっくり!おーい!」


お母さんとお父さんの声が、走りたい想いにブレーキをかけた。


なるべくゆっくり歩くふりをした競歩スタイルで、私は病院を飛び出した。



駐車場でうちの車を探す。

あった!

銀色のベンツSクラス。


中を覗くと、後部座席に鳥籠が置いてあった。



「いざや?ほんまに、いざや?どこにいたん……。」

窓を少しだけ開けていたらしく、私の声に反応して、伊邪耶がけたたましく鳴いた。


普通の、セキセイインコの鳴き声だ。



「いざや?おはよ。おはよ?いざや?」

何度か繰り返してみたけれど、かつてのような言葉を話してくれない。


ただ、チュンチュン鳴いていた。



少し遅れて、両親がやってきた。


「いざや、どうしたん?しゃべらへん!」


お父さんが重々しくうなずいた。

「そうなんや。……餌も食べるし、普通に元気なんやけど、言葉をしゃべらんくなってしもてなあ。……まいらと一緒に湖に落ちて……やっばり、ショックやったんかなあ。」


「生きていてくれただけでも、よかったわよ。ね?いざや?」