ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

「遠慮せんでいい。気が済むまで泣けばいい。」


心に寄り添ってくれている……。

……そうか……。

孝義くん、奥さんを亡くしてるから……。



すんと鼻をすすってから、聞いてみた。

「孝義くんも?……今も奥さんと一緒に生きてる?」



すると孝義くんは、ちょっとためらって……それから、静かに言った。


「生きていた。……てゆーか……心残りやった。身体の弱い彼女を守ってやれるのは俺だけやったのにって、ずっと罪悪感と一緒に生きてた。でも、今は、感謝のほうが強い。」



いつから……、死んだ奥さんは孝義くんのなかで過去形になったのだろう。


私も、いつか、あの世界で知った苦しみや哀しみを、感謝で彩ることができるのだろうか。



途方に暮れそうになった。

けど、見上げた孝義くんの目が……すごく優しくて……。

独りじゃない、って思えた。


お父さんやお母さんだけじゃない。

大好きな孝義くんも、こうして、楽しくもなんともない……むしろ鬱展開な異世界体験談を話しても、引かないで、側にいてくれる。


……戻って来られて……よかった……。



あの世界も、この現実も、決して理想的なユートピアではない。


でも、イザヤとの時間が楽しくて、幸せで、満たされていたことは事実だ。

イザヤが、私をかわいがって、愛してくれたのも……永遠ではなかったけれど、確かにそういう時間が存在した。



いつかは……私も、孝義くんのように、あのディストピアを良い思い出と感じることができるのだろうか……。




「……大丈夫。もう、誰もお前を傷つけない。戦も反乱もない。山賊もいない。安心して、身体と心を養生したらいいから。とにかく、寝ろ。」


「うん。ありがと。……寝るまで、側にいてくれる?」


調子にのって、そうおねだりしてみた。



孝義くんは、何も言わなかった。

でも、すぐ側の椅子に座って……低い小さな声で古い言葉の説法を唱え始めた。


「……まさか、それ……子守歌のつもり?」


「そうや。よぉ寝られるわ。目ぇ閉じてみぃ。」


「何てありがたみのないことを……。」


でも、孝義くんらしい。


笑いをかみ殺して、目を閉じた。




静かな闇の中、ところどころしか聞き取れない、ありがたい説法が耳を素通りしてゆく……。


不安も恐れも消えた。


私は、すぐに眠りにおちた。


***

翌朝、あたりまえだけど、孝義くんの姿はなかった。