ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

「孝義くん……。」

新たな涙がこみ上げてきた。



孝義くんは、しいっと人差し指を口元に宛てて……、やっぱり音もなくドアを閉めた。

「もう面会時間終わってるから。まもなく消灯時間らしいわ。……足……痛いんか?」


「……痛かった、はずやったのに……痛くないの……。」


わけのわからないことを言ってしまった。



でも、孝義くんは、黙って頷いた。

すべて、わかっているかのような表情に、私は甘えた。


こんなこと、誰に言っても、信じてもらえないだろう。

お父さんにもお母さんにも、とても、言えなかった。

夢を見たとしか思ってもらえないだろうし、下手すると、頭を打ったと心配されてしまうかもしれない。


でも、私は、空想ではなく、体験してきたのだ。


わかってくれるのは……孝義くんだけだと思う。



一から十まで説明することはできない。

でも、聞いてほしかった。


夢かもしれないけれど、戦乱の異世界で1年以上を生きたこと。

好きになった人が、2度も他の女と結婚してしまったこと。

友達の大切な人を誤って殺してしまったこと。

そして、せっかく授かった赤ちゃんを、たぶん流産してしまったこと。




孝義くんは、黙って聞いてくれた。


私の言葉が途切れるのを待って、孝義くんが言った。


「つらいことばっかりやったんか。しんどかったな。……よく、戻って来たな。おかえり。」


優しい声と言葉が、私のひび割れだ心に染み込んでゆく。


「……信じてくれるの?……異世界とか……アホなことゆーてるのに……」



孝義くんは、ちょっと笑った。

「信じるも何も。……その顔、見ればわかるわ。一昨日と別人。……オトナになってる。」


思わず、両手で頬を抑えた。

「……老けた?……日焼け止め、なかったから……化粧水はあってんけど……やっぱり、老けた?」


「アホか。そうじゃなくて。……人として、深まった。」


孝義くんは一息ついて、それから続けた。


「午後の勤行のとき、まいらに何か起きてるような気がしてならんかった。とにかく生きていてほしくて、ずっと祈ってた。もっと早く来たかったけど、来客があって、こんな時間になってしもた。……待たせたな。」


胸が……ドキドキしてる……。

うれしい、って、喜んでる。