ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

命綱を手繰り寄せるように、私の意識は、孝義くんの声を頼りに浮上していった。



「……動いた!まぶたが、動いた!まいら!まいら!」

懐かしい声がする。


……お父さんだ……。




嗚咽……鼻水をすすりあげる音……か細い声……。


これは、お母さん。

何を言ってんのか、わかんない。

うにゃうにゃふにゃふにゃ……じれったい。



不意に頬に熱を感じた。

温かい……。


この感触……知ってる……。


お母さんの手……。



鼻の奥がつーんとして……涙が溢れ出す……。



お母さん。

お母さん。


……私……赤ちゃん……守れなかった……。




再び、孝義くんの念仏が聞こえてきた。

この声の深さに、救われる……。



私の悲しみは、意識とともに、深淵に沈んだ。



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目覚めは突然の頭痛。

頭が割れそうな痛みに、私は七転八倒した。



「まいら!?」

お父さんの声。


「痛いっ!頭痛い!痛いっ!」


そう訴えたら、お父さんがナースコールで叫んだ。


「娘の意識が戻りました!頭が痛いと言ってます!来てください!」


お父さん!

お父さんだ!

お父さん!


……娘、と呼ばれたことで、私は胸がいっぱいになった。




「まいら……」

オロオロしてるお母さんの弱々しい声。


夢じゃない。

戻って来たんだ。



ぐるりと見渡す。


白い部屋。

……ティガの研究室?


違う。

天井にカーテンレールがある。



覗き込むお父さんとお母さん。

駆け付けた看護師さんとお医者さん。


……あれ?


「孝義くんは?」



そう聞いたら、お父さんもお母さんも、変な顔になった。


「……意識が戻ってすぐ、『孝義くん』って……」


「孝義くんは、京都でお勤めでしょ。まいらのこと、まだ何も言ってないわよ。今日中に意識が戻らなかったら、連絡するつもりだったけど。」

お母さんの言葉に、私は首をふるふる動かして……突如おそわれた激しい痛みに目をつぶった。


身体に繋がっている点滴に、医師が別の薬を入れるよう看護師に指示をして行った。


しばらくしたら、頭痛がおさまった。

ようやく目を開けたら、お父さんとお母さんが心配そうに私を凝視していた。




「私……どうしたの?」


まだぼんやりしてるけど、記憶はあった。

イザヤと船ごと湖に沈んだはずだった。


ふとももの矢傷も……不正出血も……どう思われてるんだろう……。