ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

「……まいら……」

多少、楽になったのか、イザヤが目を開けて、私を見上げた。


弱々しい優しい瞳に涙がこみ上げてきた。


「イザヤ。……ごめん……。もう……ダメみたい……。私も……赤ちゃんも……。」


そう言ったら、もう、本当に……我慢が決壊したみたい。

私は両の目から涙を滂沱し、嗚咽して泣きじゃくった。


ふとももからも、……子宮からも……血が止まってくれない……。


指先が冷たく、唇が震えだした。



船底で、イザヤの血と私の血と……たぶん赤ちゃんの血も、混じり合って渾然一体となっている。



そろりとイザヤが私の涙を指で払ってくれた。

「……謝るな。……よい。もう、よい。……ともに、……逝くか……。」


「うん。」

迷いはなかった。


でも、2人とも、もうほとんど動けなくて……湖に飛び込む動作もつらい……。


イザヤはティガの準備してくれた懐剣で船底をほじった。


さすがに穴を開ける力はないらしい。

あきらめて、板の継ぎ目に刃先を入れ、てこの原理で板を剥がした。


水が、入ってきた。


「まいら……。」

イザヤは懐剣を手放し、私を抱き寄せた。


2人で抱き合って寝転ぶには……私のふとももに刺さったまんまの矢が邪魔だった。


「……これ、抜いて。」

イザヤに頼んだら、黙って抜いてくれた。


めちゃめちゃ痛いれど、時間がたっているからか、想像してたような血の噴水にはならなかった。


滾々と流れる互いの血にまみれて、私たちは、ひしと抱き合った。


温かみは感じなかった。



水が、私たちの体温を奪ってゆく……。



「……私の最期に、そなたがいてくれて、よかった……。」

それがイザヤの最期の言葉だった。



私の返事は、湖水にくぐもって、かき消された。



息が出来ない苦しさを感じることなく……私の目の前が白くなった。



湖水も、血も、イザヤも、消えてしまった。



眩しさに目を閉じた。


鉛のように、身体が重たい。



イザヤは、もう、いない……。

それだけは、はっきりわかったけれど、あとは、混沌。



そのまま私は、意識を失った。



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低い低い……地を這うような低い声……。


祈っている……。



ああ……孝義くんだ……。

孝義くんの読経が聞こえる……。


私を呼んでいる念仏の声。