ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

先ほどより、右腕からの出血が夥しいようだ。

もしかして動脈からの出血なのだろうか。

出血多量で……死んじゃう?



「イザヤ!傷、どこ?とりあえず、血を止めよう!」


慌てて私は船底を這いずり、イザヤの右腕に触れようとした。



「……手遅れだ。……すまぬ。私のことはいいから……そなただけでも……」

そう言ってイザヤは目を閉じた。


気を失ってしまったみたい。

出血多量なのだろう。


……どうしよう……。



オールはすでに手が届かないところまで、流されてしまっていた。


岸ももう見えない。


ボートは漂流して……オースタ島とも、湖底温泉とも、全然違う方向に向かっているようだ。



風が冷たい。

寒い。


あれ?

急に、腹部に痛みがさしこんだ。


……え?……あれ?

何、これ!


痛いっ!!!


ふとももの痛みと連動していた鈍痛が、激痛に変わってしまった。



……これは……やばいかもしれない……。


あ、やだ。


出てる……。

生理みたいな、感触……。

てか、生理?


恐る恐るスカートのなかに手を入れてみた。


……生理どころの血じゃなかった……。

手が……真っ赤に染まっていた……。


うわぁ。

これ、やばいって!


大丈夫?

お腹の赤ちゃんは、うんともすんとも言ってくれない。


さっきは動いていたのに……ただただ重く、痛い……。


もしかして……赤ちゃん……もう……死んじゃったのかな……。


お腹……痛い……。



私は、船底にしゃがんで、腹痛に耐えていて……布の塊を見つけた。


これは?


船尾近くに隠すように結わえてあった。


ほどくと、毛布の中に、傘と、蝋燭と、マッチと、懐剣。

……たぶん、ティガが準備してくれたのだろう。


ありがとう。


感謝の気持ちと同時に罪悪感に押しつぶされそうになった。



ティガの大切な双子の片割れを……ドラコを殺してしまった……。


不可抗力とはいえ、どう謝ればいいのか……。



いや、謝る前に、顔向けもできない。


ただただ申し訳なくて、悲しい。




「……寒い……」

イザヤが紫の唇をふるわせて、つぶやいた。



「うん。寒いね。……毛布あるよ。」


私の言葉は、イザヤの耳に届かなかったらしい。



膝を折り曲げ丸くなるイザヤに毛布をかぶせた。

そして、背中をさすってみた。