ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

私は、その剣を拾い上げて、彼を刺そうとした。


瞬間、ためらいが生じた。


結局刺せなかった……。



ただ、剣は拝借して、イザヤを追おうとした。

でもやっぱり、太腿に刺さったまんまの矢の痛みがつらくて……。


……これ、抜いたら、大量出血だよね?

そしたら、ますます動けへんくなるかも。


我慢!

気合いだ!


剣を杖がわりに、なんとか歩き出した



背後から先ほどの兵士が、叫んでいる。

視界が戻ったら、私を捕らえに追いかけてくるだろう。


逃げなきゃ。



遠くから、高い笛の音が聞こえてきた。

続いて、(とき)の声。

また別の兵士達が、イザヤの相手に加わったらしい。


どれぐらいの人数なのか、見当もつかないけれど……あの腕の出血……。

イザヤも長くはもたないだろう。



……嫌や。

そんなの、嫌や。



私は気力を振り絞って、歩みを早めた。

矢が刺さったまんま歩くって……なんか、落ち武者みたい。


まあ、これから、イザヤと逃げるんだから、まさに落ち武者になるんだけど。

と、背後から、怒号が追って来た。


先ほど目潰しをくらった兵士が追ってきたようだ。



この足では、とても振り切れない。

ならば……と、覚悟を決めた。


心持ちゆっくり歩み、充分に敵が近づいて来たら、今度こそ斬る。


間合いを計りながら歩いていたら、なんと、別の方向からまた新たな兵たちが走って来た。


既にイザヤと一戦交えたのか、血まみれだ。



てか、イザヤは?

まさか、この兵たちに……。



去来した不安は、すぐ霧散した。

まるで殺人鬼のような形相でイザヤが兵たちを追い回しなぎ倒していた。



……怖い……。

はじめて、そう思った。


身体が震えて、力が入らない。


ふたたび私は、地に片膝をつきうずくまってしまった。



「まいら!」

イザヤが私を呼ぶ。



顔を上げたら、いつものイザヤと……そのすぐ後ろに、兵士の鑓先!


危ないっ!



私は、持っていた剣を、イザヤを狙う兵士に向かって投げつけた。


もちろんそんな乱暴な攻撃は、まともな効果をあげられない。

しかし、イザヤへの注意喚起にはなった。



イザヤは、振り返って、兵士を一刀両断した。


あたり一面が血で染まった。