ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

本当は、足が痛くて痛くて……のたうち回りたいけれど、そんなことしてたら、マジで殺されそう。


「では、行くとする。……いいか?そなたは、逃げよ!」

そう言って、イザヤは走り出した。


「ひどっ!おいてかないでっ!」


思わずそう叫んだけれど、イザヤは振り向かなかった。


降り注ぐ矢をかわしながら走り、弓手(ゆんで)の胸を突き刺した。

刺された弓手も、刺したイザヤも……血を滴らせている……。



別の兵士が、今度は剣でイザヤに突進してきた。


イザヤは、血に塗れた剣を、今度は大きく振るった。


首から胸に掛けてをざっくり斬られた兵士から、大量の血が吹き出し飛び散った。



続いて、背後に回った兵士の脚を剣で払った。

兵士はもんどり打って、ぎゃーぎゃー喚いた。


うるさい!と、ばかりに、イザヤは転がる兵士の頸動脈に刃を宛てた。


返り血でイザヤもまた、赤く染まった。




イザヤは、ぐいっと目元を袖で拭い、自分の剣をびゅっと振って血を落とすと、再び駆け出した。



私は、あっという間に3人を始末したイザヤの手腕と、あまりにも凄惨な現場に圧倒された。



……いやいやいや。

呆けてる場合じゃない。

早くイザヤをどこかに隠さなきゃ。


でも、ふとももが……痛くて重くて、……走るイザヤに、とても追いつけない。


それどころか、歩くのも、けっこう……ダメかも……。



ふらふらになった私がうずくまったのは、ちょうどイザヤに斬られた兵士のそばだった。


血池の中で、私は無意識に目をつぶってしまっていた。

痛みで気を失うことはなかったけれど、……少しだけ、休みたくて……。


両手を血に染めて、倒れないように支えた。


足が重い。

鉛のようだ。


やばい。

このままじゃ、まずい。


逃げるどころか……動けない……。



「まいら!!」

遠くのほうで、イザヤが叫んでいる。


見上げると、すぐそばまで敵兵が近づいていた。

たぶん味方の兵士達の死骸を見て、私もまた反乱分子と判断されたのだろう。


雄叫びをあげて、私に剣を振り下ろした。


恐怖で身がすくんだ。

……はずだった。

でも、私はほとんど無意識のうちに、血に染まった砂を両手にいっぱい掴み取り、兵士の目に叩きつけるように投げていた。



声にならない叫び声をあげて兵士は目を両手で抑えた。

はずみで彼の持っていた剣が落ちた。