ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

「……そなたの世界……。」

イザヤの声が震えていた。


「うん。……楽器も音楽もいろんな分野があるし、イザヤ、楽しいと思うよ。」


「……そうか。……それも、よいな……。」

湿った声。


泣いてる……。



私もまた、こみ上げてくる涙を飲み込んだ。

「……とにかく、腹ごしらえして、少し眠って。暗くなったら、湖に」


最後まで言うことはできなかった。

馬の蹄音が近づいてきた。



「いかん。隠れろ!まいら!」

そう言ってイザヤは湯壺から出て、私を湯壺へ押し込めた。



「ちょ!逆!私は追われてへんから!イザヤ、隠れて。」

慌てて湯壺から這い出て、イザヤの腕を引っ張った。


ずるりと、気持ち悪く、腕を覆った上衣が滑った。



「……くっ……」

イザヤが顔をしかめた。


驚いて、イザヤの顔と、右腕を何度も凝視した。


袖口から……血が滴った……。



「腕……傷があるの?斬られたの?どこ?手当てしなきゃ。」


焦ってイザヤの上衣を脱がそうとしたけれど、イザヤは無造作に私を払った。



「どこも斬らせぬ。……矢が(かす)めただけだ。騒ぐな。」


絶対そんな軽傷じゃない。

だって、血が……ぽとぽと切れ目なく落ちてる……。


こんな腕で、戦えないんじゃない?



「様子、見てくる。」

私はそう言って、小屋を出ようとした。



「よせ!」

「……偵察。大丈夫。」


そう言って、小屋を出たら……ひゅっと音がして……突然、ふとももに熱を感じた。


驚いて足を見た。



一本の矢が……刺さっていた……。



ひっ!



熱は痛みに変わっていた。



「いたーーーー!」


びっくりして声をあげたら、イザヤが小屋から飛び出してきた。


「まいら!大丈夫か!」


「や!あかん!出てきたらあかんて!」


慌てて両手で止めようとしたけれど、イザヤは既に剣を抜いて私を庇って立っていた。



「私はオーゼラの近衛騎士団長だ。そなただけでも、護る。」


その声から、そして背中から、これまで誰も守ることのできなかったイザヤの悲しみが痛いほど伝わってきた。


「……だけでも、は、余計やわ。」

そう強がって、私はぐるりと周囲を見渡した。


ドラコはいない。

つまり、雑魚ばかり。


私でも……何とかなるかもしれない……。


でも剣がない。