ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

「……人を斬ったのは、はじめてだ……。」


「……うん。……イザヤが斬られたんじゃなくて、よかったって思う……。生きていてくれて、よかった。こうして、逢えた……。」


それでも前向きなことしか言わないようにした。



イザヤは、ちょっと苦笑した。

「実戦経験はなかったが、やはり私は強かったぞ。無我夢中で何人も斬った。人を(あや)めた恐怖でわけがわからなくなったが、死にたくなくて、がむしゃらに戦った。……だが、剣が血糊で滑って、曲がって……使い物にならなくなれば、剣より(やり)、鑓より弓矢のほうが戦闘力は高いとよくわかった。……火薬にいたっては、あんなもの、反則だ。」


「……うん。……そうなんやろね。」


「私には剣しかなかったからな。……みんながやるように、自分が斬って倒れた兵士の剣を何度も奪って、戦ったが……死者から掠奪をしている自分が惨めで……結局、何もかも投げ出して逃げてきた。」


「……そうやったんや。あ!お腹すいてるんじゃない?イロイロあるよ?」


そう言って、持参した食料を出そうとしたけれど、イザヤは悲しそうに首を横に振った。


「いや。とても食べられぬ。……むざと斬られた人間の臓物(はらわた)や、血肉を見過ぎた……。」


「そんなんゆーてたら元気出ぇへんやん!食べて!無理やり食べて!飲んで!ほら!」


押し付けようとしたけれど、イザヤは静かに言った。


「そなたと腹の子で、食べよ。私は、もうよい。……傷の癒えた元気なまいらに逢えて……心残りもなくなった。」


ちっ……。

私は有無を言わさずイザヤの口にちぎったパンを押し込んだ。


目を白黒させながら、それでもおとなしくもぐもぐ咀嚼を始めたイザヤに聞いた。


「心残りがなくなったら、どうなの?投降するの?それとも、わざと斬られて死にたいの?」



イザヤの目が泳いだ。




「騎士らしく、討ち死にしたい?……やめてね。」


「……。」


何も答えられないまま……イザヤは再び、からっぽの湯壺の中に腰を下ろした。



うーん、引きこもられてしまったか。


さすがに湯壺に2人で入るのは狭いので、私は坪の外側に背中をつけて座った。



「……それでも、死にたいならさ……一緒に、湖に、飛び込もう?」

そう誘ってみた。


返事はない。


私は、なるべく優しく言った。

「もしかしたら、一緒に、私の世界に行けるかも?……考えると、わくわくしない?」